手に汗握る強盗劇を想像してみてください。映画『オーシャンズ11』のような緊張感を期待するでしょう。レーザー、熱ドリル、そして金庫の扉が開くと、そこには金塊の山や、未加工のダイヤモンドが積み上がっている……。しかし、世界の小売業界において、最も重大な強盗はラスベガスのカジノで起きているわけではありません。それは地元のスーパーの乳製品売り場で、もっと静かに、もっと密かに起きているのです。
泥棒に熱ドリルは必要ありません。コートの袖があれば十分なのです。彼らが奪っているのは金塊ではなく、ブリー、マンチェゴ、そして熟成チェダーの塊です。スーパーでの些細な出来事に聞こえるかもしれませんが、その規模は驚くべきものです。英国のCenter for Retail Researchのデータによると、チーズは正式に「世界で最も盗まれている食品」の称号を手にしたのです[1]。
この事態の深刻さを理解するには、数字を見る必要があります。これは単に棚からクラッカーが数枚消えるといったレベルの話ではありません。世界のチーズ供給量の約4%が、毎年どこからともなく消え去っているのです[1]。これは世界の食料サプライチェーンにおける、大規模かつ構造的な流出を意味します。小売業者が食い止めるのに苦労している、世界経済における「静かな、黄色い色の排水口」なのです。
「シュリンケージ」の正体
小売業界では、この現象を「シュリンケージ(棚卸資産の減少)」という専門用語で呼んでいます。シュリンケージとは、製造から販売に至るまでの間に発生する在庫の損失を指します。事務的なミスやベンダーによる不正、物理的な破損などが原因となることもありますが、最も執拗で追跡が困難な要因は「窃盗」です。
チーズについて語る際、それは非常に特殊なタイプの窃盗を意味します。テレビやブランドバッグの盗難とは異なり、チーズは生鮮品です。賞味期限があり、独特の臭いがあり、その性質上、周囲の注意を引かずに大量に持ち運ぶことは困難です。それにもかかわらず、なぜチーズが主要なターゲットであり続けるのでしょうか?
その答えは、「密度」「価値」「揮発性」が完璧に組み合わさっていることにあります。チーズは「高価値・低容積」の商品なのです。高級なゴルゴンゾーラの塊や、高品質なパルメザンチーズの大きなブロックは、占有するスペースは最小限でありながら、非常に高い価格設定がされています。泥棒にとって、それは究極の獲物なのです。隠しやすく、運びやすく、そして決定的なことに、非公式経済(闇市場)においてその価値が驚くほど維持されるからです。
強盗を動かす経済のエンジン
窃盗のパターンは決してランダムではありません。それは世界経済の変動する鼓動と深く結びついています。生活費が上昇し、インフレが家計を圧迫するにつれ、窃盗への動機が変化します。高級チーズの価格が上がれば、レジを通らずに済ませたいという誘惑も高まるのです。
研究者たちは、チーズの窃盗は食品価格の上昇に伴って急増することが多いと指摘しています[1]。それは計算された行動なのです。ある人々にとっては、食糧不足の時代に高カロリーで栄養価の高い食品を確保するための「生存戦略」となります。また別の人々にとっては、それは一種の「マイクロビジネス」です。盗まれたチーズは二次市場で容易に転売でき、そこでの顧客もまた、上昇する食料品コストを回避しようとしている消費者であることが多いのです。これにより、大手小売業者の損失の上に利益が築かれるという、乳製品の「シャドー・エコノミー(影の経済)」が形成されます。
これが悪循環を生み出します。小売業者が在庫の4%を窃盗で失うと、彼らは単にそのコストを吸収するのではなく、残りの96%の価格にその損失を上乗せします。泥棒がチーズを一つ盗むたびに、他の全員のチーズの価格が上がり、その値上げこそが次の窃盗への動機を生み出すのです。
盗難品の階層
チーズが首位に君臨していますが、小売損失の裏社会において、チーズだけが単独で存在しているわけではありません。Center for Retail Researchは、現代の万引き犯にとっての「指名手配リスト」とも言える、一貫した盗難品の階層を特定しています。チーズに次いで多いのは、生肉、チョコレート、アルコール、シーフード、そして粉ミルクといった、高価値で需要の高いアイテムです[1]。
これらのアイテムには共通点があります。すべてが「必需品としての贅沢品」であるか、あるいは「高タンパクな主食」であるということです。これらは人々が頻繁に消費し、すぐに使用でき、グラムあたりの知覚価値が高い商品です。チョコレートやアルコールは典型的な「衝動的」な窃盗の対象ですが、肉や粉ミルクは、より切実な、生活必需品に起因するシュリンケージのカテゴリーを代表しています。
しかし、やはりチーズは別格です。それはあらゆるカテゴリーの交差点に位置しています。主食であり、贅沢品であり、高価値な資産であり、そしてポケットに滑り込ませるのが信じられないほど簡単なのです。それは、ほとんどの人が何も考えずに通り過ぎる通路で、毎日何百万回も実行されている「完璧な犯罪」なのです。
Sources
- Center for Retail Research, Global Food Theft Statistics.






